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事例編#05|シンガポールCSFとは何か——2026年版|AIと口論する政府の未来戦略
このエピソードの概要
政府官僚の研修スケジュールに「AIとの口論」——SF映画のワンシーンのようですが、シンガポール政府が国家的な危機を未然に防ぐために日常的に行っていることです。事例編第5回は、首相府(PMO)のストラテジーグループ配下に置かれた「戦略的未来センター(CSF)」を、2026年版公式ハンドブック『Thinking About Tomorrow』などをもとに解き明かします。
CSFは「未来予言局」ではありません。1980年代後半に国防省で始まった実験が、2015年に首相府の中枢へ編入され、いまや「分散配置された国家の認知インフラ」として機能しています。予測(フォーキャスト)はパターンが続く場合に有効だが、フォーサイトはパターンが崩れる場合にこそ役立つ——外部のレポートではなく、省庁を越えた職員が日常的に議論し、暗黙の前提を洗い出すプロセス自体を重視するのが特徴です。
番組では、極端な未来を先に固定して逆算する「バックキャスティング」、問題の性質を見極めて重厚な分析の乱用を防ぐ「クネビン・フレームワーク」、行政官向け研修「FutureCraft」、幹部ネットワークSFNと実務者の「サンドボックス」、そしてSF作家ケン・リュウらを政府に迎える理由を解説。AIに極端な未来の人格を持たせてディベートさせる「プレポステラス・フューチャーズ」の狙いは、AIを信じさせることではなく、「絶対にあり得ない」と反論する根拠の中に潜む参加者自身のバイアスを炙り出すことにあります。
一方で、効果の因果を証明できない「フォーサイト・インパクト・ギャップ」、権力の中枢ゆえの集団思考リスク、そしてエリート閉鎖性——高性能なレーダーに映らない社会の辺境の「弱い兆候」を誰が拾うのかという問いにも踏み込みます。
文字起こし
出演:EBPM新聞記者・ヴェレ、EBPM新聞記者・シン
研修スケジュールに「AIとの口論」と書かれていたら
シン ちょっと想像してみてほしいのですが、今これを聞いているあなたが政府の官僚だとして——午後の研修スケジュールを見たら、「AIとの口論」と書かれていたら、どう思いますか。
ヴェレ AIとの口論、ですか。普通の公務員なら、何かの間違いかと思いますよね。
シン ですよね。しかもそのAI、単なる便利なアシスタントではないんです。テクノロジーによって公共部門が根本から激変してしまった、極端な未来から来た「使者」のような強烈な人格を与えられていて——参加者は、そのAIと本気でディベートさせられるわけです。SF映画のワンシーンのように聞こえるかもしれませんが、実はこれ、シンガポール政府が国家的な危機を未然に防ぐために、ごく日常的に行っていることなんです。
ヴェレ 面白いですね。この話は、単なる奇抜なワークショップの紹介ではないんですよね。
シン そうなんです。今回のディープダイブでは、まさにそのシンガポール政府の驚くべきメカニズムに迫ります。情報源は、2026年版の公式ハンドブック『Thinking About Tomorrow』と、シンガポール首相府の内部資料。これらをもとに、「戦略的未来センター」——略してCSFの実態を解き明かしていきます。
ヴェレ このCSFは、水晶玉を覗き込んで「何年に何が起きますよ」と予言するような、いわゆる「未来予言局」ではないんですよね。
シン まったく違います。誰でも日々の仕事で目先の課題に追われて、長期的な変化を見落としてしまうことがありますよね。だからこそ、政府という巨大な組織の中に、長期思考や不確実性への耐性をどうやってインストールしているのか。その「国家的な認知インフラ」の実態を、今回は深掘りしていきます。
首相府のど真ん中にある「認知インフラ」
シン 一般的に、未来予測を行うシンクタンクと聞くと、政府の実務からは少し離れた場所で分厚いレポートを書いている、学者たちの集団をイメージしますよね。山の頂上にいる孤高の機関のような。でも、資料を読んでいて一番驚いたのが、彼らの「居場所」です。首相直属の独立した外部シンクタンクではなく、シンガポール首相府——PMOのストラテジーグループの配下にいる。
ヴェレ そうなんです。国家権力のど真ん中に、がっちりと組み込まれている。そこがシンガポールモデルの核心ですね。
シン 最初からそこにいたのですか。
ヴェレ いえ、実は1980年代後半に、国防省でひっそりと始まった実験的な試みがスタートです。そこから1995年にシナリオプランニングオフィスが設立され、2009年にCSFという形になりました。当初は「時々特別な調査を行うチーム」のような位置づけでしたが、2015年に首相府の中枢に編入され、現在では政府の戦略機能そのものとして完全に内面化されています。CSFの上級顧問であるピーター・ホー氏は、これを「分散配置された国家の認知インフラ」と呼んでいます。
シン 認知インフラ。つまり、外部のコンサルタントにわざわざお伺いを立てるのではなく、政府という巨大な身体のど真ん中に、中長期の危険や機会を察知する神経系を直接埋め込んでいるような状態、ということですか。
予測とフォーサイト——パターンが崩れるとき
ヴェレ まさにその通りです。では、なぜわざわざ内部に埋め込む必要があったと思いますか。
シン うーん、内部にいたほうが話が早いから、とかでしょうか。
ヴェレ それもありますが、彼らのハンドブックにある「第五命題」が答えです。「予測はパターンが続く場合に有効だが、フォーサイト(戦略的予測)はパターンが崩れる場合にこそ役立つ」という考え方です。
シン パターンが崩れる場合——過去のデータが役に立たないような、未知の時代ですね。
ヴェレ ええ。過去の延長線上にない変化が起きたとき、外部の人間から「大変なことが起きますよ」と分厚いレポートを渡されても、現場の人間はリアルに感じられず、動かないんです。
シン 確かに、他人事になってしまいますよね。「報告書を棚に飾って終わり」のような。
ヴェレ そうならないために、異なる省庁の職員たちが日常的に集まって、一緒に未来について議論し、自分たちの暗黙の前提を洗い出す——そのプロセスそのものを重視しているのです。成果物としてのレポートよりも、議論するプロセス自体が大事。危機が起きたときに、すでに省庁の壁を越えて連携できる「関係資本」が出来上がっている。これが、内部に神経系を張り巡らせる最大の理由です。
SP+——バックキャスティングとウォーゲーミング
シン 「関係資本を作るため」というのは、すごく納得しました。とはいえ、素晴らしい哲学があっても実践する手段がなければ、壮大な未来ワークショップをやって「会議室に霧がかかって終わり」になりませんか。具体的にどんなツールで、パターンが崩壊する未来を考えているのでしょうか。
ヴェレ そこで彼らが使っているのが、「SP+(シナリオプランニング・プラス)」と呼ばれる道具箱です。未来を予測するだけでなく、シナリオプランニングを中心に、いくつかの強力な思考ツールを組み合わせています。中でも特に機能しているのが、「バックキャスティング」と「ウォーゲーミング」ですね。
シン バックキャスティングは、現在から未来へ線を引くのではなく、未来から現在へと逆算する考え方ですよね。
ヴェレ その通りです。例えば「AIがどう進化するか」を現在から考えると、どうしても今のトレンドの延長でしか想像できません。
シン ええ。チャットボットがもっと賢くなるくらいかな、とか。
ヴェレ でもバックキャスティングでは、まず強制的に極端な世界を設定します。例えば、「2040年、AIがすべての公共サービスを完全に自動化して、人間の公務員がほぼいなくなった世界」。その上で、「では2028年や2035年に、どんな具体的な事件や法改正が起きればその世界に到達するのか」と、時間を遡って考えていくのです。
シン なるほど。ゴールを先に固定してしまうことで、現在からは想像もつかない非連続な変化のシナリオを、強制的に描かざるを得なくする。
ヴェレ そうなんです。そして、ウォーゲーミングで、そのシナリオに対して自分たちが実際にどう動くかのシミュレーションを行うわけです。
クネビンとフォレッジ——道具の使い分け
シン ちょっと待ってください。すごく強力なツールだとは思うのですが、すべての課題にこんな重厚なシナリオ分析を持ち出していたら、意思決定がめちゃくちゃ遅くなりませんか。老朽化した橋をどう修繕するかのような、既知の手順で解決できる単純な問題にまで「2040年の極端な未来」と言い出したら、現場は混乱して仕事が回らなくなります。
ヴェレ 非常に鋭い指摘です。まさにそこが、フォーサイトを組織に導入するときに一番陥りやすい罠なんです。
シン 全部を複雑に考えすぎて、組織が硬直してしまう。
ヴェレ ええ。でもCSFは、その危険性を防ぐための強固なフィルターを持っています。彼らは「クネビン」というフレームワークなどを使って、第一段階で問題の性質をきっちり定義するのです。単に橋を直すような予測可能で単純な問題なのか、それとも次のパンデミックのような複雑でカオスな問題なのか。そして、単純な問題であれば、シナリオプランニングは一切使いません。
シン なるほど。神経系が過剰に反応して身体が動かなくなるのを防いでいるんですね。「すべての課題にこの重厚な道具は使わないぞ」と。
ヴェレ そういうことです。さらに彼らは、2026年の新概念として「フォレッジ(Forege)」というものを使っています。簡単に言えば、リソースや目的を最適化するための「ミキサーのつまみ」のようなもので、フォーサイト事業を設計する6つの軸があるんです。
シン つまみ。状況に合わせて強弱をつけるということですね。
ヴェレ その通りです。この課題は数年がかりの分厚い国家シナリオとして扱うべきか、それとも数時間で作れる短いニュースレターレベルで済ませるべきか。資源と目的のトレードオフを、このフォレッジで柔軟に調整しています。
未来思考を「生息地」にする——FutureCraft・SFN・サンドボックス
シン ツールの使い分けが徹底されているのはよく分かりました。でも、いくら使い勝手のいい道具箱があっても、それを使う人間がいなければ意味がない。お役所仕事に慣れた現場の官僚たちに、こんな複雑なツールや「未来の非連続な変化」という考え方を、どうやって政府全体に広げているのですか。一部の天才だけがやっているわけではないですよね。
ヴェレ そこがシンガポール政府の最も巧妙なところです。彼らは単にツールの使い方を教えるだけでなく、「未来思考」を政府内のハビタット——つまり「生息地」にしようとしているのです。具体的には、「FutureCraft(フューチャークラフト)」と呼ばれる体系的な研修プログラムがあり、行政官クラスで「101」から「201」といったレベル別に、まるで新しい言語を教えるように訓練しています。
シン 新しい言語ですか。確かに、特別な一部の人たちだけが難しい専門用語を使っているうちは、組織の文化は変わりませんからね。
ヴェレ そうなんです。でも、ここで一つ問題が起きます。研修を受けた実務者たちが自分の部署に戻って「よし、未来思考を試してみよう」と思っても、どうなると思いますか。
シン 直属の上司から「そんな暇があったら目前の予算案をまとめろ」と言われて、潰されてしまいそうですね。
ヴェレ まさにそれです。そうならないために、彼らは意図的に「階層構造のネットワーク」を設計しています。まず、各省庁の副次官クラス——幹部級が集まる「SFN」というネットワークが四半期ごとに開かれ、「未来思考は組織として重要だ」というトップの政治的なお墨付きを与えます。
シン 幹部がまず方針を語って、傘を広げるんですね。
ヴェレ そして、その傘の下に、実務者レベルが月々集まる「サンドボックス」——「砂場」という場を用意しています。実務者たちはこの安全な砂場で、キャリアの傷を恐れることなく、大胆な実験や実践ができるわけです。
SF作家という「異物」を政府に入れる
シン 幹部がSFNで守り、実務者がサンドボックスで遊ぶ。よくできています。でも、それだけだと政府内部の人間だけですから、思考が内向きになりませんか。
ヴェレ ええ。だからこそ、その砂場には強烈な「異物」が持ち込まれます。CSFは年間200人以上の外部の思想家と接触していて、ケン・リュウなどの著名なSF作家をフェローとして迎え入れているのです。
シン SF作家を政府の中枢に呼ぶんですか。それが政策立案にどう役立つのでしょう。
ヴェレ 官僚というものは、どうしても既存の政策言語や過去の成功体験という枠組みの中でしか思考できなくなります。いわゆる「タコツボ化」した状態ですね。その常識を壊すには、論理的なレポートよりも、現在の言語では語れない非連続な未来を物語として検討する「SFの力」が必要なのです。ある査読論文でも、これを「ナッジの社会的側面」と呼んで高く評価しています。
シン ナッジ——行動をそっと後押しする仕組みですね。
ヴェレ そうです。未来思考を、特別で異常な作業ではなく、政府内で誰でも共有可能な慣習——「イージー&ソーシャル」なものにしている。そして、卒業生が各省庁に散らばっていく人材の循環が、非常に重要なんですね。
プレポステラス・フューチャーズ——AIと口論する本当の理由
シン トップの庇護、安全な砂場、そしてSF作家という異物。これでやっと新しい言語が定着するわけですね。では、そうやって育った実務者たちは、実際にどんなアウトプットを出しているのですか。
ヴェレ ここで、冒頭にお話しした「AIとの口論」が登場します。
シン 極端な未来から来たAIとディベートするやつですね。「プレポステラス・フューチャーズ」でしたっけ。
ヴェレ ええ。AIチャットボットに極端な未来の人格を持たせて参加者と対話させるのですが、ここでの目的は、AIが提示する荒唐無稽な未来を参加者に信じ込ませることではないんです。
シン 信じさせない?では、何のために口論させるんですか。
ヴェレ 参加者は、AIの極端な主張に対して「いや、いくらなんでもそんなことは現実に起きないだろう」と反発して、論破しようとしますよね。その瞬間を狙っているのです。「絶対にあり得ない」と主張する根拠の中にこそ、その人が無意識に抱えている現在の制度へのバイアスや、思考の限界線が隠されているんですよ。
シン 面白い!AIを「正解を教えてくれる神様」として使うのではなく、自分たちの常識の脆さを炙り出すための、わざと厄介なディベート相手として使っているんですね。
ヴェレ まさにその通りです。一方で、もっと日常的なアウトプットもあります。「Ctrl+Alt+Future(コントロール・オルト・フューチャー)」という隔週のニュースレターです。DeepSeek-R1のような新興技術の兆候などを、数時間でさっとまとめたもの。先ほどのフォレッジの考え方に基づいて、分厚いレポートだけでなく、こうした日常的なスキャンも立派なフォーサイトの実践として評価されています。
AIに渡さない「最後のハンドル」
シン ニュースレターも立派な未来予測なんですね。でも、そこまでAIが賢くなってきたら、いっそ情報収集からシナリオ構築まで全部AIに丸投げしたほうが効率的ではないですか。
ヴェレ いえ、CSFはそこに非常に明確な境界線を引いています。彼らは、AIに丸投げして人間の「意味づけ能力」が浸食されることを強く警戒しているのです。AIは、探索範囲を広げたり、要約したり、前提を揺さぶったりする「補助装置」としては非常に優秀です。でも、国家の政策には常に、どの価値を守って何を犠牲にするのかという究極のトレードオフが伴います。
シン 確かに。あちらを立てればこちらが立たず、のような。
ヴェレ その価値判断は、絶対にAIには決められません。人間の痛みを伴う判断ですから。だから「最後のハンドルは絶対に人間が握り続ける」という、確固たるスタンスなのです。
シン AIを予測ツールとして盲信した瞬間、国家の思考が停止してしまうわけですね。
完璧ではない——インパクト・ギャップと集団思考のリスク
シン 聞いていると、シンガポール政府は本当に隙のない完璧なマシンのように思えてきます。でも現実問題として、これだけ徹底した仕組みがあっても、うまくいかないこともあるのではないですか。
ヴェレ おっしゃる通り、決して完璧ではありません。OECDも指摘している「フォーサイト・インパクト・ギャップ」という大きな壁が存在します。どの予測がどの政策をどう変えたのか、因果関係を証明するのが極めて困難だということです。例えば、CSFのシナリオのおかげで危機が未然に防げたとしても、現実には何も起きなかったわけですから。
シン 「私が警告したから火事が起きなかったんです」と言われても、火事がない以上、証明しようがないですよね。
ヴェレ そうなんです。だから評価がどうしても、「参加者の意識が変わった」といった内部の回顧的な証拠になりがちです。そしてもう一つ、さらに深刻なリスクがあります。「集団思考の罠」です。CSFは首相府の中枢——権力のすぐそばにいますよね。影響力を持てる反面、トップの政治的優先順位に同調しすぎてしまうリスクがある。都合の悪い未来から無意識に目を背けてしまう、認知の「単一障害点」になる危険性です。
シン 「ボスが嫌がる未来は考えないようにしよう」という忖度が働いてしまう。中枢に近いからこその弱点ですね。
ヴェレ だからこそ、彼らは意図的に外部のSF作家を巻き込んだりしているのです。
他国比較と、あなたの組織への応用
ヴェレ ちなみに、他国と比較すると立ち位置がもっとはっきりします。例えば英国は、公開資源と科学的な助言を重視する「オープンなモデル」。カナダは逆に、現行の政策から意図的に距離を置いて中立性を保つ「独立型モデル」。フィンランドは、議会を中心に据えた「民主主義接続型」です。
シン 国によって、フォーサイトの神経系をどこに置くかが全然違うんですね。シンガポールは「中枢埋め込み型」だと。
ヴェレ ええ。もし日本や、あるいは今これを聞いているあなたの組織がここから学ぶとすれば、どうすればいいと思いますか。
シン いきなり巨大な「未来省」のような新しい部署をドカンと作っても、機能しなさそうですよね。
ヴェレ その通りです。組織図だけ輸入しても意味がありません。現実的なのは、内閣幹部などの小さな中核チームと、各省庁に分散する実務者のチームを結ぶネットワークを作ることです。そして最も重要なのは、政策への翻訳回路を持つことと、外部の知などの「異論を保護する仕組み」を設計すること。ストレステストを日常的に行える環境ですね。
シン 異論を保護する設計原理。これは国家レベルの話だけではなく、自分のチームでもすぐに活かせますよね。フォレッジのつまみのように目的に応じてやり方を変えたり、異質な意見を持つ人が安全に発言できるサンドボックス——「遊び場」を作ってみる。これなら明日からでも始められそうです。
最後の問い——エリートのレーダーに映らない「声なき声」
ヴェレ そうですね。ただ最後に一つだけ、非常に厄介な懸念について考えてみたいのです。今回のソース資料を深く読み解くと、「エリート閉鎖性」という言葉が出てきます。CSFの協力ネットワークであるSFNなどは、基本的に上級公務員や高度な専門家だけで構成されているという限界があるんです。市民参加型のフォーサイトの試みも、あるにはあるのですが。
シン ということは、この洗練された神経系を動かしているのは、徹頭徹尾エリートたちだということですか。
ヴェレ そうなんです。ここで考えてみてほしいのです。もし、政府の脳がエリート官僚と高度な専門家だけで構成されているとしたら——彼らの高性能なスキャンレーダーには決して映らない、社会の辺境で起きている致命的な「弱い兆候(ウィークシグナル)」を、一体誰が拾い上げるのでしょうか。
シン どれだけ優れたAIを使っても、同じようなバックグラウンドを持つ人たちだけが会議室に集まっていたら、システムの外側にある「声なき声」はノイズとして切り捨てられてしまう。
ヴェレ ええ。本当に強靭な未来思考とは、会議室の外のその声なき声を、どうシステムに組み込むかにかかっているのかもしれません。今これを聞いているあなたはどう思いますか。あなたの組織のレーダーは、外のノイズを拾えていますか。
シン ドキッとする問いですね。同質性の罠は、どんなに進んだシステムにも存在している。自分のチームの「当たり前」を疑う、素晴らしい視点だと思います。今回は、国家の認知インフラとして進化を続けるシンガポール政府のCSFについて深掘りしました。このディープダイブが、あなたの日常の思考を揺さぶるきっかけになれば嬉しいです。それでは、次回のディープダイブでまたお会いしましょう。
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