事例編#11|統計局はEBPMより先に動いていた——データ社会を支える透明なインフラ
この回の要点
統計局は、EBPMが行政で広く語られる以前から、e-Stat、統計法改正、API、匿名データ、統計教育、自治体支援を整備してきました。日本の政策評価を支える「見えないデータインフラ」の歴史と実装を、総務省統計局の一次資料からたどります。
文字起こし
このエピソードの概要
統計局は、EBPMが行政で広く語られる以前から、e-Stat、統計法改正、API、匿名データ、統計教育、自治体支援を整備してきました。政策効果を分析する以前に、データを見つけ、意味を理解し、比較し、機械で扱い、安全に分析できる環境が必要です。EBPMは分析手法だけでは成立しません。その前に、Evidenceを作れる環境そのものが必要です。
統計局は本当に「EBPMより先」に動いていたのか
ここでいう「EBPMより先」とは、日本政府がEBPMを府省横断の行政改革として明示的に推進する以前から、その前提となる統計インフラが整備されていたという意味です。政府統計共同利用システムとe-Statは2008年、新統計法は2009年、API正式提供は2014年、データサイエンス講座は2015年に始まりました。政府のEBPM推進が本格的な実行段階へ入る2017年より前です。
図解|EBPMの前に作られていたもの
1921年 統計職員養成所を設置 → 2007年 新統計法公布 → 2008年 e-Stat運用開始 → 2009年 新統計法全面施行 → 2013年 統計API試行 → 2014年 API正式提供 → 2015年 データサイエンス講座 → 2016年 自治体表彰 → 2017年 政府EBPM推進 → 2018年 和歌山に利活用センター → 2019年 Data StaRt → 2026年 支援施策を継続。日本のEBPMは、何もない土地へ突然建てられたのではありません。道路はかなり前から舗装されていました。
2007年の統計法改正は「統計とは何か」を変えた
「公的統計が国民にとって合理的な意思決定を行うための基盤となる重要な情報」— 統計法第1条
2007年に公布され、2009年に全面施行された統計法は、統計を「行政のための統計」から「社会の情報基盤としての統計」へ転換しました。統計は行政だけでなく、企業、研究者、自治体、家庭や個人の意思決定を支える社会共通の基盤であり、「国民の共有財産」と位置づけられます。
e-Statは「政府のExcel置き場」ではない
e-Statは各府省が公表する統計データを一元的に提供する政府統計のポータルです。複数府省にまたがる人口、出生、雇用、所得、住宅、保育、移動、産業構造などを探すコストを下げます。検索可能性は単なる便利機能ではなく、政策形成における情報探索コストを下げるインフラです。
メタデータは「数字についている説明書」である
数字を比較するには、調査時点、対象、地域区分、分類、定義、調査方法を確認する必要があります。メタデータは違いを消す魔法ではなく、どこが違うのかを見えるようにする台帳です。これがなければ、美しいグラフで非常に間違った比較ができます。
EBPMは分析より前に止まることがある
データが存在する → 見つけられる → 意味が分かる → 比較可能性を確認できる → 取得できる → 加工できる → 安全に分析できる → 初めて分析手法を選べる。因果推論はかなり下流です。上流でデータが壊れていれば、高度な統計モデルでも救えません。
APIは「データを見る」から「データをつなぐ」への転換だった
e-Stat APIは2013年に試行が始まり、2014年10月31日に正式提供されました。統計表、メタ情報、統計データをXML、JSON、CSVなどで機械的に取得し、更新へ追随できます。統計を「人間が読みに行く公開資料」から「他のデジタルサービスが利用できる基盤」へ変えました。
「データを公開した」だけでは利用されない
平均と中央値、分母と分子、割合と実数、時系列、標本、相関、回帰を理解しなければ、公開データは使われないか、誤って使われます。統計局は2015年に日本政府初のMOOC「社会人のためのデータサイエンス入門」を開講し、児童・生徒向け教材や公務員研修も整備してきました。データインフラを人材まで含めて考えています。
新統計法は「使う」と「守る」を同時に設計した
匿名データ、オーダーメード集計、オンサイト利用は、OpenかClosedかという二択を超え、利用条件と分析環境を設計することで秘密保護と高度利用を両立します。守るために使わせないのでも、使うために全部公開するのでもありません。
なぜ統計データ利活用センターは和歌山にあるのか
2018年、和歌山県に統計データ利活用センターが開設されました。オンサイト施設、相談、研修を備え、データ利活用の拠点を霞が関の中だけに置かず、地域課題と政策実装へ接続しています。
Data StaRtは「自治体にEBPMをやれ」と言うだけではない
2019年に開設されたData StaRtは、先進事例、EBPM活用塾、研究事例、利活用相談、ツールを提供します。Data StaRt Awardは自治体の実装知を共有知へ変え、別の自治体が再利用できる形にします。理念を実務へ下ろす支援基盤です。
良いデータインフラには少なくとも6つの層がある
1|Availability — 存在する。2|Findability — 見つけられる。3|Interpretability — 意味が分かる。4|Machine Readability — 機械で使える。5|Controlled Access — 安全に深く使える。6|Capability — 人が使える。この六つが揃って初めて、DataからEvidenceへの変換が現実的になります。
ただし「統計がある」ことと「EBPMができている」ことは同じではない
統計は何が起きているかを強く教えますが、何が原因だったかは統計表だけでは分からないことがあります。因果効果には比較群、反実仮想、研究デザインが必要です。統計インフラはEBPMそのものではなく、EBPMを可能にする重要な必要条件です。
「透明なインフラ」とは何か
透明には、数字の出所、定義、調査時点、作成方法、所在、利用条件を追跡できるという意味と、正常に動いているため普段は存在を意識しないという意味があります。成功するインフラは当たり前になり、目立たなくなります。
結論——EBPMという車が走る前に、道路を作っていた
統計を作る。社会の情報基盤として位置づける。府省を越えて探せるようにする。メタデータを管理する。APIで機械につなぐ。統計を読める人を育てる。秘密を守りながら研究利用を可能にする。地方に分析拠点を置き、自治体を支援し、成功事例を横展開する。Evidenceを使う前には、Evidenceを作れる社会を作る必要があります。統計局を中心とする日本の統計行政が長く取り組んできたのは、まさにその部分です。
FAQ
統計局が日本のEBPMを始めたのですか?
単純化するのは正確ではありません。政府のEBPMは多くの主体が進めています。一方、統計行政は政府横断の推進体制以前から、その前提となる基盤を整備していました。
e-Statは統計局だけのデータベースですか?
いいえ。各府省が公表する政府統計を一元的に提供するポータルです。
統計データが十分にあればEBPMはできますか?
それだけでは不十分です。政策の因果効果を検証するには研究デザインや比較対象が必要になる場合があります。
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